AIで何か作ってみたい。でも、何から手をつければいいか分からない。
ここで止まる人は多い。止まる理由は、たいてい「最初の一手が大きすぎる」ことにある。
結論から書く。最初に選ぶのは、半日から一日で最後まで動く、誰にも頼まれていない、自分が少し欲しい小さなものだ。立派さは要らない。一個の小さなものを、最後まで自分の手で回す。それだけでいい。
何を作るか——最小の「最後まで動く」を選ぶ
最初に詰まるのは「何を作るか」だ。大きいものを思い浮かべると、そこで動けなくなる。だから題材は次の4つで選ぶ。
- 誰にも頼まれていない。仕事でも課題でもない。締め切りも評価もない。
- 半日から一日で最後まで動く。途中で力尽きない大きさにする。
- 自分が少しだけ欲しい。欲しいから、最後まで付き合える。
- 立派さは要らない。人に見せるためのものではない。動けば十分だ。
具体例を一つ挙げる。手元に CSV ファイルが一つあるとする。月ごとの数字がバラバラに並んでいて、月別に合計を見たい。これを読み込んで、月ごとに集計して、結果を出すだけの小さなツール。これなら半日で最後まで動く。
別の題材でもいい。フォルダの中のファイルをまとめてリネームする小道具でも、ブックマークを整理する小さなスクリプトでもいい。共通しているのは、入口から出口まで、自分一人で一周できる大きさであること。ここを外すと、途中で止まって「結局できなかった」だけが残る。
選ぶときの基準は一つだ。「これは半日で最後まで動くか」。動かないと思ったら、もっと小さく削る。削れるだけ削った先に、最初の一手がある。
回し方——投げて、分解して、もう一周する
題材が決まったら、回し方に入る。ここがこの記事の中心になる。
ループは3つの段でできている。
(1) やりたいことを、自然言語で投げる。
作りたいものを、言葉でそのまま書いて、AIに書かせて動かせる手元の環境に渡す。「このCSVを読んで、月ごとに合計を出して」と書けばいい。先に文法や仕組みを勉強する必要はない。学習はいったん先送りして、まず形を出す。これが今の一番の強みだ。何時間もかけて入門書を読み終えてから動き出す、という順番を踏まなくていい。
(2) 出てきたものを、分解して、なぜ動くのかを理解する。
ここを飛ばしてはいけない。一番外せない段だ。
形が出たら、それで終わりにしない。出てきたものを上から一行ずつたどって、「ここは何をしているのか」「なぜこれで動くのか」を自分で説明できるところまで噛み砕く。分からない部分が出たら、その場でAIに聞いて埋める。「この行は何をしている?」と聞けばいい。
なぜこの段を外せないか。投げて形を出すだけを繰り返すと、動くものは増えても、自分の中には何も積み上がらない。触っただけで、なぜ動くかを語れない。それは経験のように見えて、薄い経験だ。後から振り返ったとき、「やったことはあるが、説明できない」ものばかりが残る。分解して理解する段が、その薄さを防ぐ唯一の場所になる。
(3) 少しだけ難しい課題を、自分に課して、もう一周する。
一周回って理解できたら、自分でハードルを一段だけ上げる。「月別だけでなく、項目別にも集計したい」「結果をファイルに書き出したい」。少しだけ難しくして、また(1)に戻る。投げて、分解して、理解する。
このループの目的は、成果物を完成させることではない。ループを回し始めることだ。一つ目が完璧に仕上がる必要はない。回り始めれば、二周目、三周目で自然と手触りがついてくる。最初の一個は、その回転の起点でしかない。
AIは差を縮めるが、理解は自分で踏む
このやり方が今できるのは、AIがあるからだ。現場で手を動かしている人たちが、それを書き残している。
ある人はこう言う。「AI is raising individual capability to a level that once required a full team … a democratizing force rather than monopolizing(AIは、かつてチーム全体を必要とした水準まで、個人の能力を引き上げている。これは独占ではなく、民主化の力だ)」。別の人は、もっと素っ気なく書く。「AIを使えば、誰でもアプリが簡単に作れるようになりました」。そして、こう付け足す。「知っていても、それを実行している人は少数派です」。
道具はもうある。知っている人も多い。それでも、実際に手を動かす人は少ない。
ここを正直に書いておく。AIは魔法ではない。投げれば形は出る。だが、形が出ることと、自分が分かることは別だ。丸投げして理解を飛ばすと、薄い経験が積み上がるだけになる。AIは差を縮めるが、ゼロにはしない。縮まった差を自分のものにするには、分解して理解する過程を、自分の手で踏むしかない。
道具は使う。ただし、魔法だと思って使わない。この距離感が、ループの(2)を外さない理由とつながっている。
なぜ会社ではなく、自分の場所なのか
このループは、会社の環境では回せない。
会社はまだAIに慎重で、セキュリティの整理でもたついている。何を試すにも稟議が要る。貸与された環境では、ツールに触れることすら制限されることが多い。試す前に止まる。制約だらけの場所では、このループは回らない。
自分の個人の場所には、その制約がない。何を試してもいい。壊してもいい。壊して、直して、また壊す。誰にも止められないし、稟議も要らない。失敗が誰かに迷惑をかけることもない。
最小の一手を回すには、この「何でも試せる場所」が要る。会社の制約の外側、自分の手元の環境。そこが、最初の一手を踏む場所になる。
作るから、自信がつく
最後に、まとめる。
最初に選ぶのは、半日で最後まで動く、誰にも頼まれない小さなもの。自然言語で投げて形を出し、出てきたものを分解して理解し、少し難しくしてもう一周する。目的は完成ではなく、ループを回し始めることだ。
これを繰り返した先に、本物のスキルと、本当の自信がある。順番は逆だ。自信があるから作れるのではない。作るから、自信がつく。誰かに「あなたは大丈夫」と言ってもらって得るものではなく、自分の手で一個ずつ作って得るものだ。
正直なことを一つ置いておく。この道で一番ぶつかるのは、孤独だ。一人で、自分の場所で、一つのことに向き合い続ける。隣に誰もいない。だからみんな、やらないのかもしれない。回し始めること自体は難しくない。難しいのは、誰にも頼まれないことを、一人で続けることのほうだ。
一手を回し始めたら、その先に、作ったものを資産として積み上げていく話がある。顧客の仕事に時間を吸われるなかで、どうやって自分の側に成果を残すか。道具の使い方だけでは届かない、続け方の話だ。