インボイス制度 2 年目(2025〜2026 年)の経過措置・特例・請求書実務を、公的原典から自分で判断するための話

毎月の請求書を切るとき、画面の右上に並ぶ「T」から始まる 13 桁の番号を、あなたはもう何度も眺めている。
取引先から「インボイスの登録、どうされてますか」とメールが届くようになって、しばらく経った。
今年もまた、来年 10 月から経過措置(仕入税額控除を段階的に縮小する移行措置)の控除率が下がるという話を、税理士のメルマガで見かけた。

会社員のままでは漠然と気になっているだけだった話題が、独立を視野に入れた途端、毎月の数字として降りてきた人もいるだろう。すでに独立した人なら、2023 年に免税のまま据え置いた判断を、来年もう一度問われていることに気づいているはずだ。

問題は、誰も「あなたの場合はこう」とは言ってくれないことだ。会計ソフトの広告は「登録しましょう」と言い、SNS では「登録するな」という声も流れてくる。そのどちらに乗っても、3 年後の請求書を切るのはあなただ。

だから、ここでは保証ではなく、判断材料を並べる。SNS の言葉ではなく、国税庁の原典と、商工会議所の調査と、税制改正大綱の数字で。


1. なぜ今、この判断を一度しておくのか

インボイス制度は 2023 年 10 月に始まり、3 年が経った。最初の 3 年間は経過措置として、免税事業者からの仕入れでも消費税額の 80% を控除できる扱いだった。これが、2026 年 10 月から 70% に下がる。さらに数年かけて段階的に縮小していくことが、令和 8 年度税制改正大綱(2025 年 12 月 19 日 与党公表)で確定見込みになっている。

ここで二つの「もし」を、先に置いておきたい。

ひとつ目。あなたが今、免税のまま据え置いているとする。来年 10 月から取引先側の控除率が 80% から 70% に下がる。その差 10% を、取引先が黙って負担し続けるとは限らない。値下げ交渉の打診が来たとき、原典を読んでいない状態で受け答えをすれば、あなたは「言われたまま」の値段を呑むことになる。10% は、月に 30 万円の取引なら年間 36 万円分の交渉余地に相当する。これを 5 年間、毎年やり直す。

ふたつ目。あなたが今、2023 年に登録して 2 割特例(売上税額の 2 割だけを納める負担軽減措置)で乗り切ってきた個人事業主だとする。この 2 割特例は 2026 年 9 月 30 日で終了する。終わったあと、何が起きるのか。後継の措置はあるのか。あるとして、自分は対象になるのか。これを知らずに 2026 年の確定申告期を迎えると、3 月の自分が困るのは、12 月の自分の不勉強の結果でしかない。

どちらも、慌てる話ではない。だが、半年に一度くらいは原典を見て、自分の分岐点に印を付け直す価値はある。ここでは、その「印の付け方」を順番に並べていく。


2. 経過措置のスケジュールを正しく読む

最初に、いちばん大きな絵から。

経過措置の段階下げと、その上限額の厳格化は、令和 8 年度税制改正大綱で次のように整理し直された(国税庁「令和 8 年度税制改正特集 インボイス制度の経過措置の見直し」)。

期間控除率備考
2023-10-01 〜 2026-09-3080%現行(変更なし)
2026-10-01 〜 2028-09-3070%当初予定の 50% から 70% に緩和
2028-10-01 〜 2030-09-3050%
2030-10-01 〜 2031-09-3030%
2031-10-01 〜0%(終了)当初予定より 2 年延長

当初の制度設計では「80% → 50% → 0%」という三段構造で、2029 年 9 月末に経過措置が終了する予定だった。これを大綱では「80% → 70% → 50% → 30% → 0%」の五段構造に組み直し、終了時期も 2031 年 9 月末まで 2 年延長している。控除率の落ち方を緩めて、買い手側と売り手側の双方が値段の組み直しを進める時間を、もう少し長く取った格好だ。

もうひとつ重要な変更がある。経過措置の 適用上限額が、年間課税仕入れ 10 億円から 1 億円 に引き下げられた。2026 年 10 月 1 日以後に開始する課税期間からの適用となる。これは個人事業主や小規模事業者の側にはほとんど関係ないが、取引相手が大口の事業者である場合は、相手側の経過措置適用が外れる影響が、巡り巡って自分の単価交渉に降りてくる可能性がある。

なお、上記はいずれも 税制改正大綱(2025 年 12 月 19 日)段階の内容で、法案成立・施行を前提にした扱いとなる。最終的な法令確認は、国税庁の令和 8 年度改正税法ページで継続的に追う必要がある——これも、半年に一度の見直しに含めておきたい項目だ。


3. では、自分は登録すべきか、据え置くべきか

スケジュールを見たうえで、最初に立つ問いは「結局、登録すべきか」だろう。

ここで、現場の到達点を一つ置いておきたい。

日本・東京商工会議所「中小企業におけるインボイス制度等に関する実態調査」(2025 年 9 月 9 日公表、回答 2,710 者) によれば、BtoB 中心の免税事業者のうち 78.6% がインボイス登録済みとなっている。一方、BtoC 中心の事業者では 24.6% にとどまる。

この差は、判断の手がかりとして使える。

BtoB(取引相手が事業者)の世界では、相手側にとって「あなたの請求書が控除に使えるかどうか」が、そのまま相手の納税額に効いてくる。だから登録の有無が取引条件の比較対象になり、結果として 8 割近くが登録に踏み切っている。

BtoC(取引相手が消費者)の世界では、相手側に控除という概念がそもそも存在しない。登録のメリットが小さいから、4 人に 1 人しか登録していない。

つまり、登録判断の最初の分岐は「自分の取引相手の構成は、どちらに寄っているか」だ。

  • 取引先が法人ばかりで、相手の経理担当からインボイス番号の有無を聞かれている。あるいは新規取引の見積もりで番号欄が当然のように並んでいる。この状況に近いなら、すでに「登録しないと取引そのものが先細る」局面に入っている可能性が高い。
  • 取引相手が個人客中心で、領収書を切るのも個人向けが大半。この状況なら、登録は売上規模と将来の取引相手構成を見ながら、もう少し先の判断にしてもよい。

東商の同じ調査では、事務負担が増えたと感じる事業者が 73.4%、コスト増を感じる事業者が 45.8% という数字も出ている。登録は取引を守る選択であると同時に、自分の事務時間と会計コストを増やす選択でもある——という両面性は、判断の前に並べておきたい。

「登録すべきか、据え置くべきか」は、原典を読んだ後に、自分の請求書の宛名構成を見て決める話だ。テンプレ的な答えはない。


4. 価格は、どう構えるか

登録の話と並んで重く効いてくるのが、価格の話だ。

2026 年 10 月から、買い手側の控除率は 80% から 70% に下がる。あなたが免税のままなら、買い手側はあなたへの支払いのうち消費税相当分の 30% を、自前で被ることになる。これをどう分け合うかが、価格交渉の論点になる。

東商の 2025 年 9 月調査では、価格交渉を行った事業者は 23.2%、そのうち値上げを実現できた事業者は 76.9% という数字が出ている(同じく東商「中小企業におけるインボイス制度等に関する実態調査」)。

この二つの数字の組み合わせが、けっこう示唆に富んでいる。

  • 価格交渉を「行った」事業者は、まだ 4 人に 1 人にも届いていない。多くの事業者は、交渉そのものを起こせていない。
  • 一方、いざ交渉のテーブルに乗せた事業者の 4 分の 3 強は、値上げを実現できている。つまり、交渉した側にはそれなりの勝率がある。

ここから読めるのは、「交渉をしないことが、最大の機会損失になっている」という構造だ。「言ってもどうせ通らない」と思って黙っている事業者が多く、実際に切り出した側は意外と通っている。

もちろん、交渉そのものは気が重い仕事だ。だから、交渉を持ち出す前に、自分の手の中に何を持っておくかが効いてくる。経過措置のスケジュールを表で示せること、買い手側が今後どれだけ控除率を失っていくかを年度別に並べられること、それを踏まえた「自分の提示価格」の根拠を 1 行で言えること——この三つがあると、交渉は「お願い」ではなく「事実の整理」に変わる。

「経過措置 70% 期に、価格をどう構えるか」は、感情の話ではなく、スケジュール表と自分の取引先の組み合わせで決める話だ。


5. 2 割特例の終わりと、3 割特例の始まり

ここで、特例運用の話を整理しておく。誤読されやすいところなので、原典に沿って正確に見たい。

2 割特例は、免税事業者からインボイス登録に切り替えた個人・法人を対象に、売上にかかる消費税額の 2 割だけを納めれば足りる、という負担軽減措置だ。適用期間は 2023 年 10 月 1 日から 2026 年 9 月 30 日まで(基準期間の課税売上高 1,000 万円以下が要件)。

東商の調査でも、2 割特例を活用した事業者は 68.6%、そのうち 初申告がスムーズだったとした事業者は 92.0% と、現場での活用度と評価は高い。

ただし、この 2 割特例は 2026 年 9 月 30 日で予定通り終了する。これは大綱で動いた話ではなく、当初設計どおりだ。

その上で、令和 8 年度税制改正大綱で新設されたのが 3 割特例だ(国税庁「3 割特例の概要」PDFフリーランス協会ニュース「インボイス負担軽減措置の延長」2025-12-17)。

3 割特例の要点を、2 割特例と並べて見ると違いが分かりやすい。

項目2 割特例(終了)3 割特例(新設)
適用期間2023-10-01 〜 2026-09-30令和 9 年分・10 年分(2027〜2028 年)の確定申告
対象個人・法人個人事業主のみ
納付額売上税額の 2 割売上税額の 3 割
売上要件基準期間の課税売上高 1,000 万円以下基準期間の課税売上高 1,000 万円以下
手続申告書付記のみ申告書付記のみ

ここで読み違えやすいのが、「2 割特例が終わって、そのまま 3 割特例に乗り換わる」と理解してしまうことだ。実際には、

  • 2 割特例(2023-10 〜 2026-09)と 3 割特例(2027 年・2028 年分)は、対象も期間も割合も違う別制度
  • 3 割特例は 個人事業主限定。法人は対象外
  • 2026 年 9 月末から 2027 年分確定申告までの間、特例の連続的なつなぎは存在しない(2026 年分は経過措置と通常計算の枠組みに戻る)

という構造になっている。

ここまで踏まえると、特例運用の判断は次の三段で組める。

  1. 自分は 2026 年 9 月末まで 2 割特例の枠内にいるか
  2. 2026 年分(2027 年 3 月申告)は、特例なしの通常計算で組み直す必要があるか
  3. 2027 年分・2028 年分(個人事業主のみ)は、3 割特例の選択肢を取れるか

「特例終了で大変だ」という感情の前に、まずこの三段に分けて、自分のカレンダーに線を引いておく——それで十分だ。


6. 請求書と会計ソフトを、どう整えるか

スケジュールと特例の話のあとは、毎月の手を動かす実務に降りてくる。

適格請求書(インボイス)として認められるための記載事項は、国税庁「No.6625 適格請求書等の記載事項」 で 6 項目が定められている。

  1. 適格請求書発行事業者の氏名または名称、および 登録番号(T + 13 桁)
  2. 取引年月日
  3. 取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
  4. 税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜または税込)および適用税率
  5. 税率ごとに区分した消費税額等
  6. 書類の交付を受ける事業者の氏名または名称

このうち、独立直後の事業者が手書きやテンプレで請求書を切っている場合に踏みやすい地雷が、いくつかある。登録番号の頭の「T」を書き忘れる。税率ごとの消費税額の端数処理を、税率別に 1 回ずつではなく明細ごとに丸めてしまう。BtoB の請求で受領事業者名の記載を省略してしまう——いずれも、後から相手の経理から差し戻しが来やすい論点だ。

このあたりを毎月の手作業で正確にやり続けるのが大変だから、会計ソフトに任せる、という選択肢が出てくる。

会計ソフトの選び方には、いくつかの軸がある。

  • 公式の操作手順が一次ソースとして公開されているか:例えば freee 会計の場合、登録番号の設定手順や請求書テンプレートの切り替え手順が、freee ヘルプセンター に公開されている。何かに詰まったときに、公式情報で自己解決できる経路があるかどうかは、毎月の運用負荷に直結する。
  • 自分の取引規模と複雑度に合っているか:売上 1,000 万円以下で経理は実質一人——東商の調査で 79.4% の事業者がこの構成だ。複雑な多階層仕訳が必要な機能は、この層には過剰な場合もある。
  • 将来の特例運用に追随しているか:2 割特例の終了、3 割特例の新設のような制度変更に、ソフト側のアップデートがどの程度のタイムラグで追随しているか。

ここでひとつ、本記事の限界として正直に書いておきたい。今回の調査では、マネーフォワード クラウドの個別設定手順については、信頼できる一次ソースを取り切れなかった。各サービスの一次情報を直接確認したうえで自分の判断軸に当てはめてほしい。会計ソフトの選び方は判断軸として描けても、個別製品の操作手順まで踏み込むには、各社の公式ヘルプを当たるのが結局いちばん速い。

「会計ソフトを揃える」「税理士に当たる」という動詞そのものは、独立事業者にとって遅かれ早かれ通る経路だ。だが、その先の固有名を選ぶのは、上の三つの軸を自分のケースに当てた後の話になる。


7. 自分の分岐点に、当てはめる

ここまでで、スケジュール・登録判断・価格交渉・特例運用・請求書実務という五つの軸を並べてきた。最後に、これを自分のケースに当てる手順を簡単に置いておく。

順番は、上から下への一直線で良い。

  1. 自分の取引相手構成を確認する:直近 6 か月の請求先を並べて、BtoB と BtoC の比率を数える。BtoB が 7 割以上なら、登録判断は前向きに寄せた方が安全な側に倒れる。
  2. 自分の年間売上規模を確認する:基準期間(個人事業主なら 2 年前の暦年)の課税売上高が 1,000 万円以下かどうかで、特例の選択肢の有無が変わる。
  3. 2026 年 10 月のカレンダーに線を引く:経過措置 70% への切り替え、2 割特例の終了、適用上限 1 億円への厳格化——この 3 つが同じ日付で動く。価格と特例の見直しを、この時期にまとめてかけられるよう準備する。
  4. 2027 年・2028 年のカレンダーに線を引く:個人事業主なら 3 割特例の選択肢があるか確認する。法人なら対象外なので、通常計算の枠組みで備える。
  5. 会計ソフト・税理士の見直し時期を決めておく:制度の節目に合わせて、半年に一度くらいの頻度で、自分のセットアップが今の制度に追随できているかを点検する。

ここで作るのは、暗記すべき知識ではなく、自分の事業カレンダーに重ねた 個人用の判断スケジュール表だ。これがあれば、半年ごとに国税庁ページを見直すだけで、判断は自分でできる。


8. 選択肢

最後に、ここまでの話を選択肢として整理しておく。

選択肢 A:登録を据え置き、価格と取引先構成で対応する

自分の取引相手が BtoC 中心、あるいは BtoB であっても少数の安定取引先に限られるなら、登録を急がず据え置く判断もある。経過措置 70% 期の価格分担を相手と整理し、必要なら 2028 年・2030 年の段階下げのタイミングで再判断する。手数を抑える選択。

選択肢 B:登録に踏み切り、特例と会計ソフトで負担を抑える

BtoB が中心で、新規取引でも番号を求められる場面が増えているなら、登録に踏み切る。2 割特例期間中は事務負担を最小化し、2026 年 9 月末以降は通常計算 +(個人事業主であれば)3 割特例で運用する。事務負担は確実に増えるが、取引機会の選択肢を広げる選択。

選択肢 C:何もしない

これも選択肢の一つではある。
ただし、「原典のスケジュールを見たうえで、半年は様子を見ると決めた」のと、「何も見ていないので考えていない」とでは、3 年後の請求書の重みがまったく違う。ここまで読み進めた時点で、あなたは前者の側に立てる。

どの選択肢を取るにしても、半年に一度、国税庁の令和 8 年度改正税法ページと自分のカレンダーを突き合わせる——この一手間さえあれば、制度に振り回される側ではなく、制度を読みに行く側に居続けられる。それで、十分だ。


9. 関連リソース

独立後の働き方そのものを設計する論点は、別の記事でまとめている。

→ 関連記事:ハイブリッド型フリーランスとは何か

スキル投資の判断軸を、求人広告ではなく公的データから組み直す話も別記事にある。インボイス判断と並行して、自分の足場づくりを考えるときに参照できる。

→ 関連記事:Power Platform に投資する価値があるかを公的データで判断する

会計ソフトの選び方や、税理士に当たる目安については、本記事の判断軸を踏まえた上での具体検討として、別の機会に扱う。

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