Microsoft Foundry を「エージェント製品」「ワークフロー製品」「API を叩くもの」のどれかに決めようとするから、整理がつかなくなる。
実体は積み上げ構造だ——モデルの層の上にエージェントの層が乗り、その上にワークフローの層が乗る。
「今どの層を触っているか」で問い直すと、混乱は消える。この記事はその3層の地図を渡す。


混乱の正体——AI 基盤を「一枚看板」で決めようとしているから

「Foundry って、エージェントを作るやつですよね?」「ワークフロー製品の話ですよね?」——会議室でよく聞く問いだ。発言者はどちらも正しいことを言っているが、会話は噛み合わない。

問い方の型が共通しているからだ。「何をする製品か」という一枚看板を貼ろうとする限り、Foundry の全貌は見えない。Foundry は製品名ではなく、スタック(積み上げ構造)の名称だ。複数の層がそれぞれ独立した責務を持ちながら積み重なっている。「今どの層の話をしているか」が決まれば、問いへの答えは自ずと決まる。

本記事では便宜上この積み上げを L1 / L2 / L3 と呼ぶ。Microsoft の公式製品ライン名は Foundry Models(L1 相当)/ Foundry Agents(L2 相当)/ Foundry Workflows(L3 相当) であり、L1/L2/L3 は著者の概念整理フレームだ。公式名と照合しながら、地図として使う。


3層の地図——L1 モデル・L2 エージェント・L3 ワークフローは何をするのか

各層を「何をするか・いつ使うか」で横に並べる。

層(本記事の呼称)公式製品名何をするかいつ使うか
L1(モデル=API)Foundry ModelsOpenAI・Anthropic Claude・Meta Llama など 1,800+ のモデルをカタログから選び、API エンドポイントとして提供する常に。L2・L3 もこの層を経由する
L2(エージェント)Foundry Agent ServiceL1 の上にメモリ・社内知識(RAG)・ツール呼び出し機能を積む。OpenAI 互換の Responses API ベースで GA 済。Python / JavaScript / Java / .NET SDK 対応「会話の履歴を保ちたい」「社内ドキュメントを参照させたい」「外部 API を自律的に呼ばせたい」
L3(ワークフロー)Foundry Workflows複数のエージェントを段取りで繋ぎ、繰り返し可能なプロセスとして回す。旧 PromptFlow の後継(PromptFlow は 2027年4月20日に廃止予定)複数の専門エージェントを連携させる複雑なマルチステップ処理が必要なとき
横断(評価・監視・ガバナンス)Operate 層(Build 2026 公式フレーム)トレース・評価・エージェントオプティマイザー。本番稼働中の挙動を測定し、改善提案を閉ループで回すL1〜L3 のどの層でも必要。スタック全体に掛かる

全ての始まりは「サービス化」だ。 エージェントもワークフローも、最終的には API で叩けるサービスとして動く。L1 はすべての基点であり、L2・L3 はその上に積む「便利さの追加」だ。「どの層が必要か」を問うことが、「何をする製品か」という問いの本来の立て方になる。

Build 2026 では Microsoft がもう一つの3層フレーム——Build(構築)/ Deploy(デプロイ)/ Operate(運用)——を公式に提示している。L1〜L3 がプロダクト構造の地図なら、Build/Deploy/Operate はライフサイクルの地図だ。両方を持っておくと、「製品の何を触っているか」と「開発サイクルのどこにいるか」を分けて考えられる。


ローコードとプロコードは対立していない——Copilot Studio から Foundry エージェントを呼ぶ

「ローコード(Copilot Studio)とプロコード(AI Foundry)のどちらを選ぶか」という問いも、二項対立ではない。

Microsoft は公式ガイダンスで「これらは競合ツールではなく、同じ Microsoft AI スタックの2層」と明言している。Copilot Studio 側から Foundry のエージェントをエンドポイント URL 経由で呼ぶことができる(2026年時点、プレビュー)。

接続手順はこうなる。

  1. Copilot Studio の「エージェント」タブ → 「追加」→「外部エージェントへ接続」→「Microsoft Foundry」を選択
  2. Foundry プロジェクトのエンドポイント URL を入力
    書式:https://[projectname]-resource.services.ai.azure.com/api/projects/[projectname]
  3. Microsoft Entra で認証を設定し、接続名と説明を入力
  4. Copilot Studio のオーケストレーターが説明文から「いつ Foundry エージェントを使うか」を判断する

この構成が整うと、役割分担の典型例はこうなる——エンジニアが Foundry で専門ツールや大規模 RAG パイプラインを構築し、業務担当者が Copilot Studio でそれを Teams や SharePoint の体験として組み立てる。カスタム度の低い部分はローコード側で維持し、カスタム度が要る部分だけ Foundry に任せる。段階的な選択ができる。

「ローコードかプロコードか」は出発点の問いとしては整理しやすいが、最終的には「カスタム度がどこまで必要か」という問いに置き換わる。そしてその問いの答えは、層の地図を持っていれば比較的早く決まる。


何を積まないか——「L1+薄いロジック」で足りる境界線

上に積むほど機能は増える。だが積むほど、管理コストと複雑度も積み重なる。「何を積むか」と同時に「何を積まないか」を決めることが設計の本来の仕事だ。

公式ドキュメント(Microsoft Learn「What is Microsoft Foundry Agent Service?」)は、カスタムオーケストレーションが不要なシンプルなユースケースでは、Responses API を呼ぶだけで Foundry のモデルとプラットフォームツールが使えると明示している。既存コードを Foundry 専用に書き直さなくても、API 呼び出し1本で始められる。Getting started fast から内部ツールの本番運用まで、L1 の Responses API 直接呼び出しで対応できるケースは明確に存在する。

一方、L3(Foundry Workflows)が本当に必要になるのは、公式定義によれば「複数エージェントを繰り返し可能なプロセスでオーケストレーションする必要があるシナリオ」に限られる。単一の問い合わせや1ステップの変換であれば、L3 は過剰装備だ。

どの層まで積むかの判断チェックリスト

  • 複数のエージェントを連携させる必要があるか?(なければ L2 以下で足りる)
  • プロセスが繰り返し可能な定型フローとして設計されているか?(単発の処理なら L1+薄いロジックで足りる)
  • カスタムオーケストレーションロジックが必要か?(不要なら L2 の Prompt agent が適切)
  • Copilot Studio の標準機能で対応できないカスタム度が要るか?(不要なら Copilot Studio 側で足りる)

全て「いいえ」なら L1 か L2 から始める。積み直しはできるが、解体の手間は最初の設計判断が正確なほど小さくなる。


まとめ

「何をする製品か」と一枚看板で決めようとすると、AI 基盤の問いは答えを持たない。層を問い直すと、整理がつく。

L1(Foundry Models)から始め、メモリ・知識・ツールが要る時だけ L2(Foundry Agent Service)へ。複数エージェントを段取りで繋ぐ必要が出た時だけ L3(Foundry Workflows)へ。横断の評価・ガバナンスはどの層でも必要になる。ローコード(Copilot Studio)とプロコード(AI Foundry)は対立でなく補完であり、接続できる。

次の一歩Microsoft Learn の Foundry アーキテクチャドキュメントを起点に、手元のユースケースがどの層に着地するかを確認する。L2 を選んだ後のエージェント定義のガバナンス設計については、エージェント定義を Git で管理するが次の参照先になる。

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